読唇術
「夕べの映画を見たか」
城戸の屋敷に星が舞う。
音も立てずにしんしんと。
「映画?」
「深夜にやっていた」
「知らない」
「イタリアの映画で」
「へえ」
「主人公は人の心が読める」
「ふうん」
「少し羨ましかった」
城戸の庭に月が落ちる。
月は池に落ちてゆらりと滲む。
滲んだ月は暫く揺れて
そのままゆっくり沈んで行く。
「僕はいい」
「人の心なんて読みたくない」
亜麻の髪が風にゆれる。
風に揺れて肩で遊ぶ。
肩で遊んだ亜麻色は
そのままするりと流れて留まる。
「君の本当の気持ちなんて知りたくない」
瑠璃の瞳が空を仰ぎ、秋の星座が城戸に降る。
瑠璃の瞳にもそれは降り、亜麻の髪にもそれは降る。
音も立てずにしんしんと。
ふたつの影にもしんしんと。
| 「読唇術」後書
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